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【スペシャルインタビュー】
「医療法務」確立への挑戦

 メンター会員で行政書士の岸部宏一氏が、2022年に「医療法務学会」を立ち上げられたので、取材させていただきました。

岸部宏一氏

■ 医療法務に興味を持たれたきっかけについて教えてください

岸部氏 最初に興味というか気になりだしたのって、製薬会社のMRの頃なんです。
医療の世界って基本的に理系の人たちの業界じゃないですか。文系出身の自分が入ってって、 最初は薬屋なんですけど、病院の裏口から出入りする仕事をずっとやってると、文系だから気になるところって、やっぱ色々あるんですよね。理系の人は、気にならないところでもなんかあの文系だから医療機関そのものというか、経営や運営とかっていうのがなんとなく気になるようになってきたのが、MRの頃なんです。

その後、MR辞めて病院の事務長をやったり、病院経営のコンサル会社とかに入ったりした時に、現場ではずっと知っていたことでもそれは法律や制度がこういうことになってるからだっていうのがいろいろ見えてきたんです。それでちょっと気になって調べてるうちにコンサルの仕事って結局、法律や制度にうまく乗せないと提案したことも実現できないということに気がついたんです。

法律や制度については、医療機関の現場の人たちの一番弱いとこだったのは知ってたんで文系出身の自分の役割って、その辺なのかなって思うようになったのがきっかけといえばきっかけで、気がついたら医療法務が自分の専門になっちゃったわけです。

■ 医療法務学会を設立された経緯について教えてください

岸部氏 医療法務学会を作ろうと思ったのは、これも結構前から構想としては、自分の頭の中でぼんやりあったんですけど、医療の世界で法務やってる人って、ゼロだったんですよ。業界として法務そのものをやっている人は存在しなかったんです。当時は、会計事務所や業者さんが税務のついでになんとなく申請書の作成や提出の手伝いをしていたという状況だったんです。だから20年前はガチで医療法務やってる人って誰もいなかった。これじゃダメだと思って1人で始めたんですが、最初は本当に誰もいなかった。

それがここ10年ぐらいですけれど、医療法務をやる人が増えてきたんです。それでもまだまだ数が少ないので、結構みんな仲いいんです。そいつらと集まっていろいろやってるうちに、何かやろうかという話になってきた。医療系のコンサルタントの勉強会や集まりはいくつかあったんですが、法務だけやるというのはまだなくて、法務もやってますという状態だたんです。それで医療法務を専門に活動する団体として「医療法務学会」をつくることになったわけです。

たださあやろうと思ったらちょうどコロナ騒ぎが始まっちゃって、ちょっと遅れたんですけどね。2022年5月に一般社団法人日本医療法務学会を設立し、7月には第1回の総会・学術集会を開催することができました。

■ 学会設立の目的と活動内容について教えてください

岸部氏 目的は、簡単にいうと医療機関の法務をちゃんとやろうっていうことですね、ついでじゃなくて、法務を法務としてちゃんとやっていく。法務が雑で後になって困る事っていっぱい経験してるんですよ。それを予防して医療機関の運営や経営が危なくないようにしたい、健全化したい。特に今は院長先生の代替わりが急に増えてる時なんですけど、そういう時に困らないようなシステム作りたいなというか、ついででやるんじゃなくて安全にできるような仕掛けを作りたいということですね。

学会の活動としては現在、総会、学術集会、分科会があります。分科会は「医療DX分科会」と「医事分科会」、「法人分科会」の3つがあるんですけど、各分科会の専門分野の中で、事例集めるとか、新しい話が来たら情報共有するとかっていうのをできるだけ全員参加でやるような活動にしています。偉い先生呼んで3時間長い話聞くんじゃなくてもう本当にみんな集まって、各自が5分づつでもいいから事例を話すとかを中心にやってます。この辺りは医学関係の学会のスタイルを参考にしてます。

ーー 学会という形式を選ばれたのは何か理由があるのですか

岸部氏 学会というものは、ドクターとか医療機関と付き合っている立場からするととても身近な存在なんですよ。特に製薬会社のMRはドクターに頼まれて、学会の事務局とか手伝いとかが普通だったんで。だから集まって研究発表するとか勉強するとか、交流するということならまずは「学会」になります。  それとせっかく集まるんだから真面目な学術的な研究や事例報告もやりたいという思いもあります。モデルは医学系の学会ですね。

岸部宏一氏

■ 今の課題についてお尋ねしてもよいですか

岸部氏 学会の課題としては、そうですね、まだあんまり派手に宣伝とかもしてないんですけど、あんまり人に知られてないっていうところが課題といえば課題かもしれないですね。でもまあそこは徐々に、本当にやりたい人が集まってくればいいかなと思ってるんで、規模は大きくなくていいかなと思ってます。徐々に発展していくっていうか、あの要するに昔、適当でどうにかなってたことが、今はそうじゃいかなくなってるじゃないですか。だからまあ法務が必要だってのは、だいぶ認識されてきたかなっていうところなんで。
ただそれが分かってきたところで、できる人が足りないという問題があります。医療法務ができる人たちを育成して、増やしていかなくてはいけないというのが課題ですね。

例えば、代替わりで承継そのものが増えてきてるじゃないですか。ちょうどいい時代に開業したドクターたちがみんなこれから一斉に引退なんで、その時にわれわれの仕事がたくさん出てくるわけです。二代目の先生たちとかは、わりとコンプライアンスとかに対して意識あるんですよね。先代とは明らかに意識が変わりつつあるんでそこにできる人たちをぶつけてけば世の中を変えれるんじゃないか、一気に変えるいい機会になるんじゃないかと思ってます。ここでやっとかないとまたぐちゃぐちゃのままずるずる行っちゃうなんてこともあるかもしれないと危機感も持ってます。そのためには医療法務の専門家がもっと必要なんです。

■ 医療法務における行政書士の役割はどのようにお考えですか

岸部氏 医療法務における行政書士の役割ですが、これからますます大きくなっていくと思うんです。というのも今の医療機関の申請とか手続きは、医療法務に詳しくない人が片手間にやっている場合が多いと思います。中には行政書士でも本人でもない方がサービス的にやっているグレーなものも多いように感じています。そのことにより発生した問題の後始末を頼まれることも少なくありません。
専門家でもない無資格者がやることの危険性をだいぶ保健所とかもわかってきてるんですが、書類上不備がなければ認めざるおえない、個別実態まではわからないことが多いですからね。

行政書士が医療法人の実態を把握しながら適正に手続きや申請を行っていく、また医療法人の運営や医療現場でのコンプライアンスにもアドバイスを行っていくということが求められていると思います。そのために行政書士も医療法務の専門家になってもらう必要はあります。 医療法務学会は、医療法務の専門家を育成し、そして「医療法務」という分野を確立することが当面の大きな目標です。

【プロフィール】 岸部 宏一 氏   ホームページ
行政書士、医業経営コンサルタント。バイエル薬品㈱で10年余MRを経験した後に、民間医療法人(人工透析・消化器内科)事務長として医療法人運営と新規事業所開設を担当。 2000年より㈱川原経営総合センター(川原税務会計事務所/現税理士法人川原経営)医療経営指導部でコンサルタントの道に入り、2001年行政書士登録、2004年同僚と共に独立。 医業経営コンサルタントとして、全国の病院・診療所の経営指導・経営支援の傍ら、医療法務分野の第一人者として法務実務ならびに医師会、薬剤師会、各種士業団体等での講演を通じ、医療経営についての啓蒙活動を継続。
一般社団法人日本医療法務学会会長、一般社団法人日本医業承継士協会理事、一般社団法人医業経営研鑽会理事、MedS.医業経営サポーターズ代表

※このインタビューは、2024年2月に、横浜医療法務事務所で行われたものです。