林田正光氏、インタビュー

リッツ・カールトンでの経験を活かして独立へ
山口 林田さんの生き方で感銘を受けたのは、何といっても50歳を過ぎてからリッツ・カールトンで新しいキャリアをスタートすると決断されたことです。その時のご心境を教えていただけますか?
林田氏 40代中頃にバブルがはじけました。当時勤めていた藤田観光株式会社の太閤園でも売上が上がらなくなり、ストレスが溜まり、ついに病気をしたわけです。48歳のときでした。
半年入院したのですが、退院する2ヶ月前、日本経済新聞に「リッツ・カールトン、日本に進出。大阪梅田に2年後」という記事を見つけたんです。それを見た瞬間に、「よし!」と思いました。
藤田観光は、私が勤めていた太閤園だけでなく、フォーシーズンズホテルも経営しています。フォーシーズンズホテルは「リッツに見習え」という方針だったので、私もリッツ・カールトンを知っていましたし、「素晴らしいホテルだな」と思っていました。それが日本に進出すると知って、「絶対にチャレンジしよう」と決断したのです。
山口 リッツ・カールトンを退職された後、京都全日空ホテルと彦根キャッスルホテルの両方で、社長兼総支配人を務められましたね。どんどんステップアップをされるエネルギーに感服します。その後の独立には、どのような意図があったのでしょうか。
林田氏 独立の根幹にあるのは、私の志です。リッツ・カールトンと2つの日系ホテルで学んだ「CS(顧客満足)の心」を皆さんに伝えたいという志があって、独立を決意したのです。
山口 実際に独立されてからは、どのような活動をされているのですか?
林田氏 現在は、サービスの心を必要とする企業を集めて発足させた「日本CS・ホスピタリティ協会」をより発展させるために、日々走り回っています。その合間に、講演活動と企業の顧問活動を行っている感じですね。
日本は本物志向への移行期にある
山口 では、ちょっと話を変えたいと思います。5月8日の日経新聞1面に「消費をつかむ」という特集があり、「うつろう尺度」をテーマとした記事が掲載されていました。現代の日本では、いろいろな商品やサービスがものすごいスピードで生まれては消えていくということが書かれていて、「商品をつくる側も売る側も消費者に振り回されているのではないか」といった意見が述べられていたのですが、林田さんはどう感じられますか。
林田氏 「二極化」ということが言えると思います。極端に言えば、100円ショップか超高級、という二極化です。バブルがはじけた後、日本経済には長いトンネルの時期がありましたが、ようやくまた景気が戻りつつある。マーケットとして、使い捨ての商品もある程度は必要でしょうが、本物を大事にする考え方が肝心です。私の場合は完全な本物志向の世界で生きてきたので、これからもその世界でやっていきたいなと思います。
山口 本物志向というお話が出たので、ある企業の社長さんがおっしゃっていた言葉を思い出しました。先日ヨーロッパを旅行されたそうなのですが、「これからの日本社会は、今までのアメリカ型の社会からヨーロッパ型の社会に移行していかなければならないし、現に移行しつつあるのではないか」と感じられたそうです。
林田氏 それはもう、完璧な本物志向です。
山口 やはり、そうですね。
林田氏 単純な言い方をすると、従来の日本はどちらかというとアメリカ型です。使っては捨てる、消費型の社会ですね。ヨーロッパは逆に、歴史や文化を大切にし、本物を大切にする社会というイメージがあります。そして現在、ヨーロッパのブランド商品の売上は、日本がトップです。今は、本物志向に移るまでの模索期なのかもしれません。
最近、マンダリンオリエンタルホテルやコンラッドホテルといった世界の一流ホテルがこぞって日本に進出してきています。2007年の春にはザ・リッツ・カールトン東京もオープンする予定ですから、本物に触れる機会がどんどん増えるわけです。今日明日の問題ではありませんが、最終的には、日本人もヨーロッパ的な本物志向になっていくのではないでしょうか。ぶれない本物志向をしっかりと確立していくべきだと思います。
リッツ・カールトンが掲げる「クレド」の意味
山口 ではいよいよ、CSに焦点をあててお話をお聞きしたいと思います。リッツ・カールトンは「クレド」というものを掲げていますね。これは一種の企業内憲法のようなものとお聞きしましたが、「クレド」と一般企業の「企業理念」とは一部ダブっている部分がありますか。
林田氏 「クレド」を直訳すると「信念」です。クレドは、リッツ・カールトンのフィロソフィーなんです。リッツ・カールトンは「我々はサービス産業だ」と自ら位置付けていますから、サービスが売り物です。クレドも、どちらかというとお客様に満足していただくための内容が中心です。CSクレドとも呼べるかもしれません。経営理念とはちょっと違う気がします。
山口 リッツ・カールトンの場合は、売り物であるサービスに対する信念と、経営哲学とが一致しているということでしょうか。
林田氏 そう言えると思います。リッツ・カールトンがなぜ「勝ち組」になれたかというと、よそのホテルではオフィスに飾られているだけの経営理念を、クレドとして全社員が共有する姿勢を取っているからだと思います。総支配人が替わっても、信念がぶれないわけです。アメリカから新しい総支配人が来ても、違和感がないんです。
ですからやはり、「勝ち組」になれた非常に大きな要因は、クレドに基づいて価値観を共有化し、一丸となってサービスを提供してきたことだといえるでしょう。クレドという信念を共有することで、「これからも日本一、世界一でありつづけるんだ」という固い意志が生まれてくるわけです。それによって従業員に誇りと自信を持たせることができて、好循環になったのではないでしょうか。
山口 林田さんがおっしゃったように、一般の企業では企業理念は壁に貼ってあるだけのものですよね。それに対して、リッツ・カールトンでは日常業務のなかにクレドが染み込んでいて、トップが替わってもクレドに基づいて行動する仕組みができているんですね。
林田氏 そうです。日本企業の経営者は、クレドの必要性を承知してはいるのですが、社員の行動にまで反映できていないんです。企業理念を朝礼などでただ喋るだけで、それが実践されているかどうか確認をしていないので、いつまでたっても社員に浸透しません。そこに、リッツ・カールトンとの違いがあると思います。
CSの観点では、「顧客満足度」プラス「従業員満足度」イコール「売上利益率」、と考えます。顧客満足度を上げるためには、従業員満足度なくしてはあり得ない。だから、サービス業は逆ピラミッドになるわけです。一番上にまず、お客様がいる。二番目に従業員。その下で従業員の方々が働きやすい環境をつくるのが、幹部。一番下で責任を持って支えるのが、総支配人や社長です。幹部は従業員がのびのび働いてお客様にサービスができるように、従業員満足度を高める。そして、従業員は徹底して顧客満足度を上げる。それがトータルクオリティーマネージメントと呼ばれるものです。
山口 いくら社長が「モノを売りなさい」とか「お客様によいサービスをしなさい」と言ったところで、従業員がその商品やサービスに納得していなければ、本当の意味ではサービスができないですものね。
林田氏 従業員が心から誇りとプライドを持てるような職場づくりが必要です。だから、クレドのなかには「従業員への約束」という項目があります。「お客様にお約束したサービスを提供する上で、紳士・淑女こそ大切な資源です」とクレドに明記することで、従業員に対して「私たちもあなた方を大切にするので、がんばってください」と伝えているんです。
最も大切なことは、ファンづくり
山口 ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、顧客満足度が上がると利益が上がると考えてもよいのでしょうか。
林田氏 当然、そう考えてよいと思います。商品格差がなくなっているこの時代、商品そのものはどれもほとんど変わりません。では何で差をつけるかというと、「おもてなしの心」です。ホスピタリティです。ファンづくりが必要となってくるんですね。「あなたの顔を見に来たのよ」と言ってくださるお客様、つまり、ロイヤルカスタマーをつくる。そしてそのお客様がまた別のお客様を紹介してくださる。社外セールスマンがどんどん増えていく。だから早くファンがつくようにしなければいけません。
今、どこの企業でも一番大切なことは、ファンづくりです。言葉を換えれば、人脈づくりともいえますね。もちろん、ファンになってもらうためにはそれなりの理由が必要です。笑顔もない、人も褒めない、心遣いもしない。そんな人にファンができるでしょうか。そういったファンづくりの要件を社員に教育することも重要だと思います。
山口 お客様に対して、心からの笑顔が出てくるためには、社員の満足度を上げるということが重要になってくるんですね。
最後になりますが、私と林田さんとの出会いは、メンター会員の玉坪郁子さんのご紹介がきっかけでしたね。一緒にお食事をさせていただいて、その場ですぐに「ぜひ仲間に入れてください」と、メンターネットワークにご入会いただきました。とてもうれしかったのですが、そのときなぜすぐに入会しようと思っていただけたのでしょうか?
林田氏 山口さんとの人間の相性だと思います。「この人は誠実そうな人やなぁ」と思ったことが一番の理由です。「関西だけでなく、東京でも活動を展開したい」という気持ちが潜在的にありましたから、タイミングもよかったと思います。
山口 私も、人とのお付き合いにはタイミングがすごく重要だと思います。誰かとお会いしたときに「この方と一緒にビジネスをやりたいな」と思っても、そのときが時機でなければうまくいかないものですよね。
林田氏 急ぐと亀裂が生じてしまいますからね。お互いに「求め合うとき」があると思います。山口さんとの出会いは、そういう意味でもよい出会いだったと思います。
山口 私たちもメンターネットワークをとおして、林田さんのお手伝いをできればと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
林田氏 こちらこそ、ありがとうございました。
※このインタービューは、コンサルティングファームで2006年5月9日に行ったものです。
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9月14日のメンタージャムに参加したいところですが、自分自身が三重県の津市で、午後5時まで講師をしていないといけない状況なので、物理的に無理です!
出来ましたら、大阪、あるいは名古屋で林田氏のセミナーが開催されると、大変嬉しく思います!
是非是非、よろしくお願いします!